ダイコンソウの果実(バラ科ダイコンソウ属)

ダイコンソウは黄色の5弁の花をつける草で6月下旬頃から11月頃まで咲いて居ます。
トゲが生えている一つずつが果実です。この果実は種子のように見えますが痩果(そうか)と呼ばれる種類です。

植物は原則的に自分では動けないのですが種子の時には移動できます。
タンポポの仲間やカエデ類のように風に運ばれるも、ヤシの実のように水に運ばれるもの、どんぐりの仲間のように重力により地上に落ちて転がるもの、引っ付き虫として遊ばれるオナモミのように動物の体にくっついて運ばれるもの、アオキやグミのように鳥を含む動物に食べられその移動先で糞として排出されるもの、スミレの仲間のように種子についた甘いおまけを目当てで蟻に運ばれるものなどがあります。
このダイコンソウも、動物に引っ付いて運ばれるタイプの果実を作ります。

ダイコンソウの花と実に近づいてじっくり見てみましょう。

花
果実
果実
果実のトゲ
果実のトゲ

花には多数の雄しべがあります。
真ん中の薄緑のトゲトゲが生えている緑色の小さな山が雌しべです。

果実になってくるとこの雌しべが伸びてきて目立つようになります。
よく見ると鈎のように曲がった先にもう一度曲がったものがついていました。そっと触ってみても引っかかりません。
わかりやすいように、更に拡大した写真を撮ったのが右側の写真です。

熟したとげ
熟したトゲ

「もしかしたら種子が熟した頃には一番先端のものが取れてしまい、くっつくようになるのではないか?」

種子が熟してくるのを待ちました。予想通り先端についていた帽子みたいなものものは取れて無くなっていました。鋭くとがって「かぎ状」に曲がった先が服に付くようになりました!!

種子が熟さない内に運ばれてしまっては困ります。それまでの間は何かが触れても引っかからないようになっていて、種子が熟してきたらくっつきやすい形に変わる。
こんなに小さな草にも、素晴らしい工夫がなされていました。

植物図鑑を調べて、この棘は雌しべの花柱、種子が未熟な時に何かにくっつかないように防御していたものは柱頭でした。
効率よく果実を散布してもらうための工夫だけでも素晴らしいのに、そのために何かを作るというよけいなエネルギーを使わずに受粉に必要だった柱頭が果実が熟し運ばれるまで働き続けるというのもすごい仕組みです。
果実のトゲ
トゲ
熟したとげ
熟したトゲ
果実
果実

熟した果実をばらして観察してみました。花柱の先の鈎状の部分は種子の平たい面に対して直角に曲がっています。種子の大部分は水平面が縦になるように並んでいます。だからは鈎状の部分が地面に対して水平になる数が多くなります。きっとその方が人や動物にくっつきやすいのでしょう。

更におもしろいのは、花柱は果実からまっすぐのびているのではなく、付け根で少し湾曲していることです。もしこれが真っ直ぐについていたとしたらどうでしょう?
トウモロコシを一粒ずつむしる場合を考えてみてください。真っ直ぐに引っ張ればなかなか取れません。でも少し斜めにこそげるようにしたら簡単にむしれるはずです。ダイコンソウの花柱が根元で曲がっているのも力学的には同じ理由から、棘の先が人の服や動物の毛に引っかかって引っ張られたときに花柱だけがポキンと折れてしまったりせずに、ちゃんと果実を一粒ずつ壊さずにくっつけていってもらうための工夫だと思われます。
ロゼット
ロゼット
春先、芽を出したばかりのダイコンソウはこのようなロゼットになって居ます。
小さいけれど、ダイコンの葉に形が似ています。
それでダイコンソウという名がつきました。

写真:Y.Y  文: N.K   2001.11.1

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