デンドロビュームの受粉

花 「洋ランって種子はできないのよね?」 友人がふとつぶやきました。
市場に出ているのはほとんどがメリクロン苗。でも品種改良は種子からするはず・・・洋ランに適した昆虫が居ないだけではないだろうか?
それでは私が虫になってみよう。

たくさんつぼみの付いたデンドロビュームを譲っていただき実験開始です。
まず、ランの花の構造は3枚のがく片と、3枚の花弁からできています。下にある花弁は特別の形をしていて唇弁(しんべん)と呼ばれます。唇弁の下の方は袋状になっていて蜜がたまっています。

唇弁に守られるように「蕊柱(ずいちゅう)」があります。これは雄しべと雌しべが合体したものです。

ずい柱と花粉塊

蕊柱
蕊柱(ずいちゅう)
柱頭
葯帽と柱頭
花粉塊
花粉塊

側がく片と唇弁を取り外して、ずい柱の様子を見て見ました。中央の紫色のところが花粉を入れている葯です。帽子のように外れるので葯帽と言います。
そのすぐ下にあるへこんだ場所が雌しべの柱頭です。
葯帽をそっとはずしてみたら、花粉塊がこぼれ落ちてしまいました。中央の画像が花粉が落ちた後の葯帽の内側です。右が花粉塊(かふんかい)です。
ランの花粉は普通見かける花の花粉のように粉になっていないで塊になっています。この塊は指で押しつぶそうとしてもつぶせないくらい硬いものです。こぼれ落ちてしまったので、どちらが上だったのか分からなくなりました・・・

5月7日に受粉をした花の3週間後

人工授粉
赤いテープを巻いてあるのが花粉塊を取り除いた花。
黄色のテープを巻いてあるのが花粉塊を取り出し自分自身の柱頭につけた花。
何も印が無いもの(この画像では一番奥)が何もせずに置いておいた花です。

何もしなかった花は一番元気に残っていますが花柄(かへい:花を支えている柄の部分)は少し弱ってきています。
花粉塊をつけた花は一番茶色になっていますが、良く見ると子房が太ってきて花柄は一番みずみずしい緑色をしています。
花粉塊を取り去られただけの花は花柄が枯れ始めていて、もうすぐ花柄ごと落下してしまいます。

シンビジュームに続いてデンドロビュームでも花粉塊を柱頭につけたら子房が太ってくることが分かりました。

庭にあるシュンラン、エビネ、シランなど手当たり次第に同じ実験をしてみました。どの種類でも私が柱頭に花粉塊をつけた花は子房が大きくなってきています。花粉塊を取り除いただけの花はいち早く落ちてしまいました。

きっと、花粉塊を持ち去られてから柱頭に花粉塊がつくのを何日か待っていてダメだったらその花は終わりになるのでしょう。花粉塊が残っている花はまだ可能性があるということで、自然に枯れるまで残っている。そして受粉した花はもう花弁などは必要が無いのでさっさと枯らしてしまい種子を育てる方に養分を使うのでしょう。

ラン科の花は昆虫が蜜を求めて花の奥に入ってから出て行くときに体に花粉塊をつけて運び出す。
その昆虫が次の花の蜜を求めて花の奥に入ってから出て行くときに、今度は柱頭に花粉塊を渡すそうです。
構造上1つの花の中で花粉塊が柱頭につくことは無い様になっています。

果実 7.16 受粉させた果実は大きく育っています。

私が実験したのは全部、同じ花の花粉塊を同じ花の柱頭につけたのですが、とりあえず種子はでき始め子房が太ってきています。
花は同花受粉できない構造になっていることで安心して、「自家不和合性」(じかふわごうせい:自分自身の花粉では種子になれないような仕組み)を持っていないのかもしれません。それとも、出来上がった種子は発芽しなかったり発芽しても育たなかったりするのかもしれません。でも、素人の私にはそこまで調べることはできそうもありません。

年が明けて2006年4月、やっと果実に割れ目が入ってきて種子が熟した事が分かりました。今まで見たことのあるエビネ、シラン、シュンランの種子は白かったのにデンドロビュームの種子は鮮やかな黄色をしていました。

(2005.7.16 2006.4.20一部追加)
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