ツワブキ(キク科ツワブキ属)の雌しべと雄しべ

ノコンギク、コウヤボウキ、コセンダングサ・・・多くのキク科の筒状花を覗いて見ると花糸(雄しべの軸)がたわんでいます(「キク科筒状花の花糸」をご参照ください)。
筒状花の雄しべは集葯雄ずい(しゅうやくゆうずい:雌しべを取り囲んで、5本の雄しべは葯の部分がくっついて筒状になっている)ですが、その筒の中で花粉を出しています。中央を貫いて雌しべが伸びてくるときに花粉を外に押し出し雄性期がはじまりまり、花粉を出し終わると柱頭が開く雌性期になります。

花自身の伸びる力で花粉を出すほかに、もう一つ、雄性期が始まる原因があります。
まだ葯の頭にある付属物が開かず蓋のようになっている時期に、昆虫がやってきてさわると、その刺激で雄しべが下がって、花粉を出し始めます。
この時、花糸が硬くて真っ直ぐだとしたら切れてしまうでしょう。ちょうどベッドの中にあるスプリングの役目を、花糸の「たわみ」がしているのではないかと考えました。
そうだとすると、「たわみ」は花粉が出終わってしまい、柱頭が開ききったときには少なくなるはずだろう! 庭のツワブキで調べてみました。ツワブキの花は大きくて見やすいから・・・

なお、ツワブキの舌状花は雌花(雌しべだけで、雄しべは無い)、筒状花は両性花(1つの花の中に雄しべと雌しべがある)です。

雄性期の様子

冠毛と筒状花の花冠上部を取り除いて見ました。
花糸はねじれています。
花糸 花糸

雌性期の様子

柱頭葯の先端を押し開くように、柱頭(雌しべの先)が開いて雌性期に入ります。
アザミやノコンギク、コウヤボウキ・・・などは柱頭が閉じたままで葯の上まで伸びてから、雌性期に入るのですが、ツワブキの場合はとっても気が早い様です。


柱頭 花糸 柱頭は更に大きく開きますがこの頃には葯は枯れ始めます。
それでも花糸はねじれたままです。
柱頭 花糸 柱頭は伸びきって反転しました。
花糸のねじれは、かなり減ってきました。
柱頭 花糸 筒状花が枯れ始めました。
それでもこの花の花糸にはまだゆとりがあります。

花が咲き進むにつれ雌しべも雄しべも伸びますが、花糸にゆとりがあると最後まで雌しべは雄しべに包まれたままになっています。
ところが1つの頭花の中には、花糸のねじれが少なく短いタイプの花が混ざっています。


おしべ おしべ 花糸の長さにゆとりがないため
雌しべが葯の筒の一部を破って、出てしまった花です。

全ての筒状花が雌性期に入った花でこの二つのタイプがどのくらい混ざっているか数えてみました。花をばらすのは気の毒でたった2頭花だけなのでデーターとしては頼りないのですが・・・


 筒状花総数花糸が長いタイプ花糸が短いタイプ舌状花
786315 (19.2%)15
775027(35.1%)13

咲いている花を上から覗いてざっと数えた印象でも、花糸が短く雌しべが葯筒を突き破る方がはるかに少数派でした。ツワブキにとっては花糸の長さにゆとりを持たせて、雌しべ雄しべが一体となったままで枯れていくのが普通の形と言えそうです。
秋も深まると舌状花も筒状花も少しずつ枯れて、やがてポロポロと落ち、冠毛が目立ってきます。

花糸の長さが違う二つのタイプの花がある理由は分かりませんが、いずれにしても花糸の「たわみ」はスプリングの役目をするためにあるようです。

(2003.11.19)

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