はじめての北岳

  2000年6月
キタダケソウに会いに行きたい。その一念で日本で二番目に高い「北岳」に行くことにしまし
花の時期は6月下旬から7月はじめ。
天気予報とにらめっこをして快晴の予報が出た6月29日早朝、主人と二人で家を飛び出しました。
広河原までの林道でまずイワツバメに出会いました。車がトンネルに近づくとイワツバメが何羽も向こう側に飛び出します。トンネルの入り口から出口が見える程度の短いトンネルではすべて同じでした。見通せない程度に長いトンネルにはイワツバメは居ませんでした。付近の崖は崖崩れ防止のためネットを張ってあったりネットを張るための工事中だったので、もしかしたらイワツバメはトンネルの天井部に巣をつくっているのかも知れません。
気にはなりましたが、すれ違いがやっとの狭い林道のこと、車を停めてトンネルの中を歩いて確かめられず心残りでした。

10時、広河原から大樺沢ぞいに歩き始めました。予定通りには行かないもので、途中から雨が降ってきました。二股についたのがお昼ちょっと過ぎ、白根御池小屋で1泊する予定でしたがここまで来ると欲が出て、北岳山荘までがんばることにしました。
とちゅう何回か流れを渡りましたが梅雨時でもあるし、雪解け水もあり水量はものすごく豊富。登山道が小川になっているところも沢山ありました。

今年は雪が多いそうで雪渓が長いこと、急なことで少したじろぎました。白馬の雪渓はペンキでルートが書かれていましたが、ここには印がありません。たまたま何回か北岳に来たことがある方がいらしたので後をついていきました。
家を出てからいきなりの登山で高度差のためなのか、頭がふらついているようで気になりましたがアメをなめて「さぁ出発!」いよいよ急な登りが続きます。

大樺沢
雪渓を過ぎた頃には脚は痛くなるし、息は苦しくなるし、さすが3000メートル級、日本第二の山!
一歩踏み出すにも努力がいるのは普段の鍛錬がおおいに不足?
八本歯のコルのあたりではもうふらふらでした。ハシゴがいくつもあるのですが、一段登ってはふうふう、両手でヤットコサと体を持ち上げるという情けない状態でした。
私のすぐ後を登っていらした男性に「私はすごく遅いのでお先に行ってください」とお願いしたのですが「僕ももうフラフラなのでこのままどうぞ」・・・仕方ないからヨロヨロと登り続けました。

ハシゴを過ぎたあたりからあたりはお花畑。雨もあがってきて雨具が乾き始めました。山荘に着くのが遅すぎると夕食が出ないかも知れない? でも、こんなにつらいところはもう二度と来る事が出来ないかも知れない。夕食が無かったら非常食でも食べて我慢しようなどと言い訳しつつ、花を口実にゆっくり歩くことしかできない私でした。
キタダケソウのシーズンと言っても平日でこのお天気。同宿者は20人ほど。一畳に一人とゆったりと眠ることが出来ました。

翌日は雨はやんだのですがものすごい強風! 北岳まで登る途中は風向きによっては立っていられないほど。岩にしがみついて風がゆるまるのを待って、また一歩一歩。本当に少しずつしか脚が進みません。身長が高い人だったらこの一歩は私より何センチ多いのだろう・・・でも、背が高いと風当たりも強いのだろうなぁ等とアホなことを思います。
こんな過酷な環境で美しい花を咲かせる高山植物! 心の底から「偉いなー! きれいだなー!」彼女たちが丈が低く咲くのはそのせいなのだと改めて実感。
今まで見たこともないヨモギの仲間が蕾をつけています。あえぎあえぎ、見知らぬ方と「何だろう?」「アサギリソウの写真に似ているけれどねー?」結局分からずしまい。帰宅後本を見たら北岳だけに生えるキタダケヨモギらしい。事前の勉強が必要でした。

やっとの事で北岳山頂にたどり着きました。風が強いので雲は多いながら景色はバツグン。富士山がゆったりと姿を現しています。いつも家の近くで見ている富士山は西にあるのに、ここでは左上に朝日があります。気のせいかこの富士山の方が形がきれいに感じました。
ぐるっと見渡せば、雪をかぶった中央アルプス、その少し遠くに北アルプス、甲斐駒ヶ岳・・・文字通り360度の展望でした。

富士山

今来た道を振り返ると、北岳山荘の赤い屋根が小さく見え、中白峰の向こうに間ノ岳がくっきり見えます。この次は体力をつくってあそこへも登ってみたい。歩いていない間だけ脚の痛さを忘れて夢を見ます。

山頂から岩だらけの道をおそるおそる下りました。急に足下の岩の色が紫色になってきました。昨夜の雨に打たれしめっているせいか紫色に心もしっとりしてきました。
「肩の小屋」で一休み。痛む脚をなだめながらまた下り始めます。昨日は雨と霧で見えなかったバットレスが姿を見せてきました。

北岳

私の住む横浜ではもう夏の花が咲き始めているのに、ここではまだ新緑。涼しい風に雪田のところで一休み。空は青く、山は大きく、私たち二人だけ。実にぜいたくな気分です。

新緑の山

登っている間は、あまりのつらさに「もう二度と来たくない、なんでこんな思いをして・・・」と思ったこともありましたが、やっぱりあと何回かは登りたくなる山でした。季節を変えて、様々な姿に出会いたい。

広河原に戻って山に向かって「また来るからね、ありがとう!」

予想を上回るキツイ登山でしたが、お盆シーズン以外に高い山に登るのが始めての私にとって、今まで果実しか見たことがなかった花に出会えたことがとてもうれしかったです。
ミヤマハナシノブに夢中になり、キタダケソウで舞い上がり・・・今まで高いところにある白くなった葉しか知らなかったマタタビの花に出会いサルナシに似ていることに感心し・・・
こんなに早い時期にたくさんの花が咲いているのだから、8月中旬に聖岳に登ったときに花がほとんど終わっていたのも当たり前と納得し、とにかく体は疲れましたがものすごく密度の濃い山行きでした。

出会った花たち

マタタビ
マタタビ
クルマバツクバネソウ
クルマバツクバネソウ
ミヤマハナシノブ
ミヤマハナシノブ
ミヤマハナシノブ
ミヤマハナシノブ
サンカヨウ
サンカヨウ
サンカヨウ
サンカヨウ
キタダケソウ
キタダケソウ
キタダケソウ
キタダケソウ
ハクサンイチゲ
ハクサンイチゲ
イワウメ
イワウメ

出会えた花のリスト

現地でじっくり観察しきれなかったので帰宅後本を見て調べました。自信がないものには?をつけてあります。

アカショウマ、イブキトラノオ、イワウメ、イワベンケイ、ウコンウツギ、ウメハタザオ、ウラジロナナカマド、エゾスズラン、エンレイソウ、オオカラマツ、オオバタケシマラン、オオバノトンボソウ、オトコヨウゾメ、オドリコソウ、オヤマノエンドウ、カラマツソウ、キタダケソウ、キタダケヨモギ、キバナシャクナゲ、クリンソウ、クルマバツクバネソウ、クワガタソウ、コイワカガミ、ゴヨウイチゴ、サンカヨウ、サンリンソウ?、シナノキンバイ、ショウジョウバカマ、シロバナエンレイソウ、ズダヤクシュ、タカネグンナイフウロ、タカネザクラ?、タカネスミレ、タカネナデシコ、タケシマラン、タチカメバソウ、チシマアマナ、チョウノスケソウ、ツガザクラ、ツマトリソウ、ノウゴウイチゴ、ハクサンイチゲ、ハクサンチドリ、ハコネウツギ、ヒロハテンナンショウ?、ヒロハユキザサ、マイヅルソウ、マタタビ、マルバシモツケ、ミヤマオダマキ、ミヤマキンバイ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマシオガマ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマタネツケバナ、ミヤマハナシノブ、ヤグルマソウ、ヤツガタケタンポポ、ヤマガラシ、ヤマハタザオ、ヤマブキショウマ、レンゲイワヤナギ?(63種)

私の山登り