屋久島ふたたび

2004年5月
私は家族と2001年に、妹は2003年に友人と屋久島に行きました。すばらしかったので米寿のお祝いをかねて母、妹、私の3人で屋久島に行って来ました。紹介していただいた農家民宿「山ノ瀬」に3泊しご主人(岩川さん)にガイドをお願いしました。岩川さんが捕ってきてくださったばかりの新鮮なお魚、畑から取立ての野菜を使った料理がとてもおいしく、天候にも恵まれとても楽しかったです。地元の方の案内があると密度の濃い旅ができることを実感しました。

5月25日
 志戸子ガジュマル公園 布引滝 西部林道 大川(おおこ)の滝 メヒルギ 海のホタル 陸のホタル 海亀の産卵
5月26日
 紀元杉 川上杉 林道散策 ヤクシマランド 千尋滝(せんびろだき)
5月27日
 白谷雲水峡 屋久杉を使った工房(ボールペンを作りました)
5月28日
 栗生海岸 屋久島青少年旅行村 屋久島フルーツガーデン 湯泊 猿川ガジュマル

空港に迎えに来て下さった岩川さんの車でまず志戸子ガジュマル公園へ。
細い馬の尻尾みたいな気根がからみあって垂れ下がりそれがどんどん太くなっているガジュマル。
ガジュマル
ガジュマル
木の幹に沿って気根を這いおろして太くなっているアコウ。
共にクワ科の木でイヌビワのような実をつけますが、つき方が違っていてガジュマルは枝先の葉の近くにつけるのに、アコウは茶色の幹につけます。
私はなかなか区別ができませんでした。
アコウ
アコウ
海岸沿いの道を走り西部林道へ。屋久島の海岸は岩場が多いみたいです。きれいに澄んだ海の色、岩の面白さと美しい緑。景色のよいところがたくさんあって、どれがどこの海なのか分からなくなってしまいました。

海岸線海岸線海岸線

西部林道は世界文化遺産に登録されているエリアです。ヤクザル、ヤクシカが時々顔を見せる緑の深い道でした。

「大川(おおこ)の滝」 ところどころで車を止めて大きな木を見ました。太いアコウにシダがたくさん着生していたり、他の木が育っていたりします。雨が多いのでコケが多い。そこで芽吹いた植物が元気に育っているのです。
中には着生したほうの木が元の木をのっとるくらいになってしまっているものもあります。ヤマグルマ、サクラツツジなどなど。モミ、ツガなどの大木もたくさんありました。昔の炭焼き窯のあともありました。
「鹿が居る」岩下さんの声にあたりを探すと今年生まれたかと思われる幼いシカが大きな目でこちらを見ていました。
左の写真は「大川(おおこ)の滝」。幅も高さも大きくてとてもカメラに収まりません。これでも水流が少ないほうだそうで滝つぼの近くまで行くことができました。栗生(くりお)の海岸にはメヒルギが生えていました。それほど多くは無いけれどここだけにしかないマングローブの仲間。面白い形をした実がいくつもついていました。
栗生(くりお)の海岸にはメヒルギが生えていました。それほど多くは無いけれどここだけにしかないマングローブの仲間。面白い形をした実がいくつもついていました。
宿の近くの温泉(熱めのイオウ泉)で疲れを取り、おいしい夕食後、すばらしいものを見に出かけました!

まず海のホタル 細い三日月の下を海にと階段を下り、石の橋のふちにそっと座って水を覗いてみました。はじめは何も見えなかったのが少しずつ波が見え出し・・・ピカッ、ピカッ、ピカッと光るものがあちらにもこちらにも。海ホタルといっているけど本当は夜光虫なのだそうです。
次は陸のホタル 湯泊(ゆどまり)に行って小さな流れの上を飛ぶホタルを見ました。最盛期は終わりかけていたけれどのんびりした間隔で光るホタル。多分、ゲンジボタルでしょう。

最後のクライマックスは海亀の産卵! 海沿いの車道脇にある高さ120cmくらいの防波堤沿いに、10人くらいの人が居ました。海亀が産卵場所を探して歩き回っているそうです。「静かに、懐中電灯はつけない」などの注意を受け私たちも背伸びをして砂浜を見下ろしました。暗くて良く分からないけれどひときわ黒い場所が移動しています。それが海亀でした。少しずつ移動して穴を掘り出したらしく時折砂が舞い上がるのが見えます。かなり掘ってからその場所が気に入らないらしくまた移動。さっきの場所より波打ち際に近いところに穴を掘り始めました。
気がつくと亀の後ろ側に静かに人が座り込んでいました。監視員だそうです。亀が卵を産み始めると「来てもいい」という合図がありました。
亀は一度卵を産み始めると途中でやめることは無いそうです。監視員の方が大きさを測りました。甲羅の横幅、縦の長さがともに80cm。赤海亀だそうで、これでも小さいほうだそうです。穴の中にピンポン玉みたいなまん丸の白い卵を数個ずつ、透明な液体と一緒に産み落としていきます。
ここでは場所が悪くて波にさらわれる可能性が高いので、移動の準備が始まりました。穴の中から卵を取り出します。105個ありましたが2個は割れていました。触らせてもらったら鶏卵とちがってもっと柔らかくて弾力のある殻でした。落としても割れないと聞いたのですがこういう殻だからなのでしょう。昔は食べたそうで美味だったそうです。ゆでると黄身は固まっても白身は固まらないとか。
背中に触っても良いといわれてこわごわ亀の甲羅をなでてみました。想像したほど冷たくも無く石みたいでした。涙を流すと聞いていたのですが涙は分かりませんでした。大きな目をしたやさしい顔です。
時々一休みしながら卵を産み続け、終わったら穴を砂で埋め戻し始めました。ところが波打ち際に向かって下り斜面。亀は少しずつ下手な平泳ぎをしている形で先へ進んでいってしまいました。それでも時折うしろ脚で砂を踏み固めていました。自分自身がずり落ちてなかったらしっかり穴をふさいで固められたことでしょう。うしろを見るには亀の体はやや不向き。だから自分がどこに砂をかけているのか分からなかったのだと思います。・・・やっと亀は満足して海に帰っていきました。
「お疲れ様、元気でね」思わず声をかけてしまいました。
卵を産む場所を探し始めてから何時間たったのでしょうか。終わったときは夜中の12時になっていました。
「売れば高く売れるんだけどなぁ」などと冗談を言いながら監視員の方は波にさらわれない場所に卵を埋めなおしていました。こうやって夜中まで亀に付き合ってボランティアで守る人たちが居られることにも感激しました。地元の方はさすがに良くご存知でこの子は場所探しも含めて下手な方だから、これがはじめての産卵かもしれないということでした。
写真は昼間見た海亀が海から上がってきて海に戻った足跡です。どちらが往きでどちらが帰りか分かりますか?
海亀の足跡
元気といっても縄文杉は母にはきつすぎるコースなのでパス。紀元杉、川上杉などを見てからあまり人が行かない林道を案内していただきました。
横浜では公園でしか見たことが無いアブラギリがたくさんあります。ヤマグルマの地味な花も満開。サクラツツジ、咲き残ったシャクナゲ。川沿いの道にはコケがはえ良く見るとコモウセンゴケもあります。小さな白い花をつけたかわいいスミレ。崖に1株だけ見つけられた赤いドウダンツツジに似た花を咲かせるアクシバモドキははじめてみた花でした。

アブラギリサクラツツジシャクナゲ

シャクナゲは咲き始めは赤に近い濃いピンク、そして白っぽくなると花も終わりに近づきます。
この道には上の方が枯れて真っ白になった大きな木が多く見られました。盆栽では「ジン」と言ってこの風情を出すための方法があるようです。

ヤクスギランドで私の大好きな仏陀杉と再会したり、雲水峡のコケの美しさを楽しみました。岩川さんが山でコーヒーや紅茶を沸かしてくださり我々は大喜びです。屋久杉だけでなくほかの木々にも巨大なものが多く目を奪われ続けました。そして杉でも気根を出していることにも驚きました。しかも言われないと幹だと思ってしまうほどに太くなっているのです。
「昔は瓦のかわりに杉の板を使ったそうで、上手に割れる杉を選んで切り倒していた。チェーンソウなどもちろん無い時代のこと、試し切りしたあとがある。上手な職人ほど高いところから伐っている、割りにくいからと切り倒されなかった杉が今では屋久杉として残っている」説明を聞いて改めて細かいところまで見るようになりました。杉の板を運んでいる絵がかかれていましたがすべて人力でやっていたわけで、さぞかし大変だったことでしょう。

最後の日は岩川さんは登山ガイドのお仕事が入り奥様が案内してくださいました。栗生からマンボウを見る遊覧船に乗る予定でしたが波が高くて係りの人に「やめたほうが良い」といわれて断念しました。そのおかげで私は以前見られなかったスナヅルの花を見ることができました。この前来た時は黄色の糸状のものだけで、クスノキ科といわれても「?」でした。今度花を見てもやっぱり「?」だったのですが。
「青少年旅行村」は夏休みのキャンプ場。バンガローがあったり最初はなぁんだと思ったのですが、浜に近づくにつれわくわくしてきました。足元は打ち寄せられた珊瑚のかけら、貝殻がたくさんあります。こんな素敵な浜辺は生まれて初めてでした。
枝のような形をした白い珊瑚もありましたが私が気に入ったのはまぁるい模様のついた珊瑚です。
貝殻と思ったものがヤドカリで、ビックリしたヤドカリが出てしまい使えそうな貝を近くに置いても無視されてあわてたり久しぶりの磯遊びでした。

猿川のガジュマルは実に圧巻でした。何でこんなところにあるのに気がついたのだろうと思うような谷に生えていました。10畳以上の広さになるくらいに枝を広げ、そこここに気根が出て太い柱になっている。もとの幹は絡み合う気根と一緒に足元の岩を抱いたまま育ったのでしょう。岩は私の背より高く持ち上げられしっかりと支えられていました。

どうしても母に屋久島を見せたくて企画したのですが、母子3人の遠くへの旅は内心不安がありました。こんなに楽しい実り多い日を過ごせたのは、「山ノ瀬」のご一家にめぐりあえたからだと思います。

(2004.6.1)

  私の山登り