槍ヶ岳

  2000年8月
北アルプスのいわゆる「表銀座」 混雑を避けてお盆休みが終わるのを待って行ってきました。
中房温泉から燕岳、大天井岳、西岳、槍ヶ岳、大喰岳、中岳、南岳、上高地までと長い行程でした。

8月21日(月) 曇ったり晴れたり
 横浜→八王子→穂高→中房温泉→燕岳(燕山荘泊)
 

11時頃に中房温泉からいよいよ登山開始! 曇っていたものの雨の気配も無く幸運なスタートです。さすがに表銀座と言われるだけあって、踏み跡もしっかりついていてとても歩きやすい道でした。森の中の道なのにこの日は暑いこと暑いこと、腕にも汗がポツポツと玉になります。でもちょうど一息入れたい頃には第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチ、富士見ベンチという名の広場があり、木で出来たベンチが用意されて居ました。
第三ベンチをすこし過ぎたところで道が無いはずの斜面の上の方で人声みたいな小さな声がしました。ぎょっとして立ち止まると木の上にニホンザルが一頭座っていました。その奥でもう一頭が動いている音もしました。
更に登っていくといきなり明るい声で「お疲れさま!」合戦小屋に到着。かわいいお嬢さんがスイカを売っていました。大きな一切れが700円、二つに切り分けていただいて主人と大満足でした。元気を回復してお花畑の間を歩いて燕山荘に到着。

8月22日(火) 晴れ 燕岳登頂→大天井岳(おてんしょうだけ)→西岳(西岳ヒュッテ泊)

日の出 まずご来光を待ちました。今までに山の上から、海の上からのご来光は見たことがありましたがここのご来光は雲海の中から。
太陽が顔を出すと遠くの槍ヶ岳もうっすらと明るくなってきました。

燕岳宿に荷物を置いてピストンした燕岳は所々にすてきな形の岩のある山でした。山頂で周りの景色を堪能してから出発です。

今日は一日中、槍ヶ岳と北鎌尾根が美しく見えました。今までの山行きでは槍が見えてもすぐに雲に隠れてしまったのでとてもうれしかったです。

歩きやすい道をどんどん進みます。大天井岳へ登る分岐点で、頂上から景色を見たい主人は左折し、お花を見たい私はまっすぐ大天井ヒュッテへ向かう道へ。
ところがこれが間違いもとでした。地図で確認せずまっすぐ行けばよいと聞いて気軽に左右のお花畑を見ながらルンルン歩き始めたのですが・・・大きな岩がある鎖場が出てきました。まずは軽く(?)通り過ぎます。すこし行くとまた鎖場。「ウン、私もけっこう上手になったものだ」などと慎重に通過。「ヒュッテまで150メートル」と書いてあり「楽勝々々、あと15分もかからない!」・・・・・・・ところが30分歩いてもヒュッテは見えません。こちらのコースを取る人は少ないらしく見渡す限り私一人。突然不安になりました。猿がいたのだから、もしかして熊もいるかも知れない。黙っていたら危ないかも。歌を歌いながら歩きましたが声がだんだん小さくなります。あたりの景色はとてもステキ。まるで貸し切りの山。でも心細い。とにかくまっすぐ行けばよいと言われていたのだからと歩き続けました。そのうちにまたもや鎖場、そしてハシゴまで出てきました。もしかしたら脇道を見落としていつの間にかヒュッテを通り過ぎて明日の予定の槍ヶ岳方向まで踏み込んでしまったのではないか? どんどんと心細くなります。いつの間にか口にする歌は「かえりゃんせ」ばかりになってきています。
とうとう1時間くらい歩いてから引き返しました。すると途中に「ヒュッテまで450メートル」とペンキの文字。でも矢印が無いからどっち方向へ450メートルなのだか分からない。「来すぎてしまったのか? でも、分岐点なんて無かったはず・・・」またもやうろうろと行ったり来たり。仕方ないので主人と別れたところまで戻ってやり直すことにしました。
とぼとぼとぼとぼ・・・・・・自分が方向音痴なのを思い出しました。一緒に行けば良かったなぁー・・・ その時です! 私の後方から一人の若者。「あのー迷ってしまいました」と質問。結局、私が不安になったりせずにどんどん進んでいれば良かったのだと分かりました。もう一回、鎖やハシゴに挑戦です。やっとのことで約束のヒュッテにつきました。主人よりずーっと早くついてコーヒーなど飲んでいたはずの私は、主人と一緒の到着でした。
当たり前のことですが、自分の行きたいコースの地図と所要時間くらいは頭に入れておくことが大事ですねー。
そのあとの道は二人連れで実に安心して途中のお花畑も心ゆくまで楽しめました。
風がつよいのでしょう、枝が片方にだけ伸びてしまった若い針葉樹がちらほら生えていました。
槍ヶ岳

8月23日(水) 快晴
 西岳→槍ヶ岳→槍ヶ岳登頂→大喰岳(おおはみだけ)→中岳→南岳

梯子 最初はぐんぐん下る道。左右には草花が咲き乱れています。キレイ、ステキと言って楽しんでいる内にだんだんと険しくなってきました。
「本当にこれが一番易しいという表銀座?」そろそろ私の文句つけが始まりました。大きな岩を下る時など足の短い私はどんなに脚を伸ばしても無理なのです。腰を下ろして滑り落ちなくては地面に届きません。
登りになってもまた大変。ハシゴだ鎖だ・・・何回か上り下りを繰り返している内に長ーい下りのハシゴが現れました。あとで本を見たら15メートルの垂直ハシゴだったそうです。

ここは怖かった!! 頭では手でしっかり掴まって一段一段下りたら平気と分かっているのですが心はそうはいきません。後ろ向きでしっかりと掴まりながら汗びっしょりで下りました。

やっと足元の地面について一息ついてから進行方向へ向きを変えたらまたもや真っ青! ほんの短い距離なのですが細い道の両側は急な角度で落ち込んでいて道の両側に鎖が張ってあるもののまるで一本橋。通り終わって座り込んでしまいまいました。
長い休憩をして自分を叱咤激励して出発。道端にはきれいな花が下を向いて咲いて居ました。シャジンの仲間でしょう。

槍はどんどん大きく見えてきて、とうとうカメラに入りきらないほどになりました。2枚をくっつけてみました。

シャジン

槍ヶ岳

左手の谷の斜面についた左右に折れ曲がる道をゆっくりと登ってくる人たちが小さく見えました。私たちは相変わらず険しい斜面をじりじりと登っていきました。やっとの事で槍ヶ岳山荘に到着。
近くで見ると槍ヶ岳はとてもとんがって見えます。岩をよじ登りハシゴにすがって登っている人たちが小さく見えました。「私はここで待っている」と言いたい気持ち。「ここまできたのだから、登らなかったら一生後悔するだろう」とさんざん迷ってから荷物を置いて槍ヶ岳へ登ることにしました。
登ってみての感想は意外に距離は短かった。でも剣岳より怖かった。特に下りが怖かった。
多分剣岳に較べると角度が急だったのと手でつかまれる岩がほとんど無かったからだと思います。頂上は狭く登る人と下る人の譲り合いでした。でも眺めは最高でした。穂高、白馬、立山、北岳、富士山・・・

槍ヶ岳山荘まで下って昼食。するとお天気が良いから南岳まで行こうと主人が言い出しました。てっきり南岳というところまで散歩してここに泊まるのだと思っていたら、荷物を持って南岳まで行って南岳へ泊まるというのです。ものすごくショックでした。さんざん怖い思いを我慢したのも、ここで終わり、ここで泊まれると信じていたからなのに・・・
主人は「こんなに良い天気は山では珍しい、まだお昼なのにここでやめるのはもったいない」と力説します。泣きたくなりました。でも周りの人たちの声も聞こえてきます。みんな同じことを言っています。初日から一緒だった3人組の女性達も張り切っています。仕方ない、そうなのかもしれない・・・あきらめました。

現金なもので、怖い槍ヶ岳は終わりました。お腹も満足しました。段々私も元気が出てきました。
「槍でも鉄砲でも持ってこい!」の気分になりました。そうして南岳へ向けて出発!
歩き始めてみると自分で考えていたよりも脚が軽いのです。しかも西岳からの道に較べるとものすごく楽な道でした。よくマラソンをしていると途中から苦しさが消えて楽しくなってくるという話を聞きますが、私も生まれて始めてそういう気分を味わいました。歩いていても疲れを感じないのです。どんどん楽しくなってくるのです。そうしてとうとう南岳へ到着しました。
岩だらけの道
山小屋のすぐ近くにカメラを持った人が数人。
「?」 一人がそっと指をさします。ライチョウが居ました! ライチョウはった日や雨の日によく見かけるのですがピーカンの日です。あきらめていただけにとてもうれしかった。じっとしていたら親鳥1羽だけでなく今年生まれた子どもが2羽居ました。ライチョウの子は私の方に近づいてきます。そぉーっとしゃがみ込みました。子ども達はどんどん近づいてきます。私から1メートルくらいの所まで来ました。子どもなのに目の所に赤い膜がついていました。「ククク」と小さい声で鳴いています。私がまねすると答えます。実に幸せなひとときでした。

8月24日(木) 快晴
 南岳→天狗原→上高地(横尾山荘泊)

帰り道ではさんざん迷いました。お天気がよいからこのまま穂高へ縦走しようか、それとも天狗原へ下りようか。天狗原から登っ来た方のお話では鎖場があって下りは大変だということでした。でも穂高への縦走はキレットがあって難しいと聞いています。地震で壊れた道は直っているそうですがやっぱり怖い。宿の方に伺うと穂高へ向かう方が大変ということでした。私は「そんなこと予定してなかった、心の準備が出来ていない、まだ死にたくない」と言い張り、天狗原へ下りることにしました。
ところがこれがとても大変な道でした。要所要所には鎖があるのですが、あまり使われていない道らしく足場が少ない。鎖にすがってほんのつま先でホールドしないとだめなところが多かったのです。
穂高岳 私は主人の後から行ったのでそこで右足を伸ばせ、あと何pくらいなどと教えてもらってどうにか下りられましたが、最初に行った彼は大変だったと思います。山小屋ではあんなにたくさんの人が居たのにこのコースでは3組くらいしか出会いませんでした。鎖を一つ下りるたびに槍ヶ岳と穂高を眺めました。道は怖かったけれど空の色も、山の姿も言うこと無し!槍ヶ岳
怖い鎖場を過ぎたら今度は私の苦手な大きな岩がゴロゴロした下り坂です。こういうところは短足の人には難所です。人並みの脚があればこっちの岩からあっちの岩へ移れるのですが私はそれが出来ません。いちいち大きな岩から谷間になっている小さな岩に下りて、また大きな岩によじ登って・・・ものすごく時間がかかりました。
雪渓を通り過ぎてなだらかな下り坂。脚は楽になりました。心も楽になりました。ところが思わぬ伏兵がありました。晴天過ぎてかんかん照りの長い道。砂漠はもっと大変だろうと考えてみてもやっぱり暑い! 体力はどんどん消耗していきました。
元気をくれたのはニホンザルの群でした。雪渓がとけてできた小さな水たまりに来ていた彼らが次々に道を横切って斜面を登っていきます。ボスらしい1匹が最後まで残り、大きな岩の上にゆったりと座って居ました。全員の安全を確認してから(?)ゆうゆうと子ども達の跡を追って斜面を登っていきました。
やっとの事で槍ヶ岳が水面に映ることで有名な天狗池に到着。雪渓が解けた水がたまった小さい池なのですが、三脚を立てたカメラマンが多いです。10名くらいの若者がやってきて雪渓の上で雪合戦、池に波紋が立ちます。カメラマン達はあきらめて立ち去りました。
私たちも歩き始めたのですが後ろの方でドボーンと大きな音! はしゃぎすぎて落ちたのか? びっくりして振り返るとなんと男の子達が泳いでいます。若いから出来ること、我々だったら心臓麻痺です。
笑い転げている彼らをあとにかんかん照りのだらだら道を下っていきました。空は秋の青空、槍ヶ岳、穂高の眺めは最高でしたが、暑さに参りました。横尾山荘について入浴できたときは天国でした。

8月25日(金) 快晴
 横尾山荘→上高地散策→(バスと電車)→松本→八王子→帰宅

今日はのんびりと帰る日。涼しい道をのんびりと楽しみながら歩きました。花を楽しみ、鳥の声に立ち止まり。実に贅沢な行程でした。暑い暑いと言っていても空の色、草の実に近づく秋を感じます。

徳沢園に近づいたとき道を横切る小さな影。オコジョです! 向こうから来るグループから逃げてクマザサの茂みから私たちの方へ飛び出してきました。そして立ちすくんでいる我々に気がついてほんの数秒、きょとんとこちらを眺めてからクマザサの茂みの中へ身を翻して走っていきました。そのあとしばらく待っていましたがもう戻ってきませんでした。それにしても小さいけれどイタチに似た細長いからだ、茶色の体なのに胸が白く大きな目をしていた・・・写真でしか知らなかったオコジョに出会えて、今回の山旅にもう一つの大きな思い出が出来ました。

トチバニンジン

咲いていた花達

アオノツガザクラ、アオヤギソウ、アズマヤマアザミ?、アラシグサ、イヌトウバナ、イブキトラノオ、イワギキョウ、イワツメクサ、イワベンケイ、ウサギギク、ウメバチソウ、ウラジロタデ、エゾシオガマ、オオバギボウシ、オオレイジンソウ、オタカラコウ、オヤマノリンドウ、オンタデ、カニコウモリ、キツリフネ、キンミズヒキ、クガイソウ、クサボタン、クルマバツクバネソウ、クルマユリ、クロトウヒレン、ゲンノショウコ、コウモリソウ、ゴゼンタチバナ、コバイケイソウ、コマクサ、ゴマナ、サラシナショウマ、サワギク、サワヒヨドリ、シナノオトギリ、シモツケソウ、シラネニンジン、シロバナクモマニガナ、セリバシオガマ、センジュガンピ、ソバナ、タカネスイバ、タカネナデシコ、タカネニガナ、タカネヤハズハハコ、タカネヨモギ、タテヤマアザミ?、タテヤマリンドウ、タマガワホトトギス、チングルマ、ツルアジサイ、トウヤクリンドウ、トガクシタンポポ?、トモエシオガマ、ニッコウキスゲ、ネバリノギラン、ノアザミ、ノコンギク、ハクサンイチゲ、ハクサンオミナエシ、ハクサンシャジン、ハクサンフウロ、ハンゴンソウ、ベニバナゲンノショウコ、ママコナ、ママコノシリヌグイ、マルバダケブキ、ミソガワソウ、ミゾソバ、ミネウスユキソウ、ミヤマアカバナ、ミヤマアキノキリンソウ、ミヤマキンバイ、ミヤマキンポウゲ、ミヤマコウゾリナ、ミヤマコゴメグサ、ミヤマシシウド、ミヤマダイコンソウ、ミヤマダイモンジソウ、ミヤマタニタデ、ミヤマハタザオ?、ミヤマホツツジ、ムカゴトラノオ、モミジカラマツ、ヤチトリカブト?、ヤマオダマキ、ヤマトリカブト、ヤマハハコ、ヤマブキショウマ、ヤマホタルブクロ、ヨツバシオガマ

果実が目立った植物

ゴゼンタチバナ、サンカヨウ、ズダヤクシュ、タケシマラン、チングルマ、ツバメオモト、トチバニンジン、ナナカマド、ニワトコ、ノブキ、ヒョウタンボク、マイヅルソウ

出会った鳥たち

アカゲラ、アカハラ、アマツバメ、イワヒバリ、ウグイス、ウソ、オシドリ、カイツブリ、カケス、キジバト、キセキレイ、コゲラ、ゴジュウカラ、コマドリ、チョウゲンボウ、ヒガラ、ホシガラス、マガモ、メジロ、メボソムシクイ、ヤマガラ、ライチョウ、ルリビタキ

出会った動物たち

オコジョ、ニホンザル

私の山登り